海外生活体験者・学生インタビューvol.168

interviewees_g_168_profile.jpg ティティラット・ティップサムリットクンさん。タイ・スパンブリー県出身。中学まで現地校で学んだ後、タイ政府の長期海外派遣留学プログラムに参加して来日。東京学芸大学付属高校に派遣され、高校時代を過ごす。同校を卒業した後、京都大学法学部に入学。大学では国際法学研究会に所属し、数多くの国際模擬裁判・弁論大会に参加する。現在は4回生で、国際政治経済分析ゼミに所属している。次は神戸大学の国際協力研究科で国際法を専攻する予定。

タイ政府の派遣留学プログラム

―まずはじめに、先輩が日本に来ることになった経緯を教えてください。

私は、タイのバンコクから程近いスパンブリー県出身で、中学校3年まで地元の県立学校に通っていた。中高一貫だったけど、そのまま高校に進学しようとは思っていなかった。ちょうどその頃、タイ政府が長期海外留学派遣プログラムの参加者を募集してて、いいチャンスだと思って受けたら通った。

幼い頃から、両親と頻繁に国内旅行に行ってたから、新しいことや外の世界に対する関心が元から強かったのかもしれないね。それに、タイでは海外留学が盛んなんだけど、大抵一年程度のもので、どうしても遊び気分、お客様気分になっちゃう子が少なくないのよね。私はそういうのが嫌で、長く留学して現地社会に溶け込んでみたかった。

そういったことを踏まえると、政府の留学プログラムは、高校、大学、そして本人が希望する場合には、大学院まで留学先の授業料と生活費を支給してくれるから、非常に魅力的だったのよ。その代わり、帰国後は海外滞在期間の倍の期間だけ、タイで公務員になることが義務付けられているの。

―それにしてもすごいプログラムですね。日本では聞いたことがありません。

そうかな。日本でも、高度成長期あたりまでなら、似たような制度があったはず。かつての日本がそうだったように、タイのような発展途上の国では、海外で高度な教育を受けた人材が不足していて、いても大抵はより待遇のよい先進国に行ってしまうの。かと言って、海外から人材を呼んでも、必ずしもタイの事情を分かってくれるとは限らない。だから、こういったプログラムを通じて、タイに残ってくれるような自前の人材を養成することが必要なわけ。

案外知られていないかもしれないけど、日本って毎年多くの留学生をアジア諸国などから呼び込んでいるのよ。また、よく言われるように、今の日本の大学生ってあまり海外に留学したがらないから、日本政府は逆に海外から優秀な人材を呼び込む制度をとっているの。卒業して日本に残って働く人も多いし、帰国しても親日派になってくれるしね。

―なるほど。ところで、数ある派遣留学先の中で、先輩が日本を選ばれたのはなぜですか?

タイ政府の留学プログラムは、複数の派遣先から選択できるんだけど、高校から行ける国はそう多くなくて、その数少ない選択肢のうちの一つが日本だった。

それに、私としても、日本には前々から関心があった。日本人はあまり意識しないかもしれないけど、アジアの人から見ると、日本ってアジアに属しているのに、西洋の文化や法制度、政治制度などをうまく取り入れられている。そのやり方はアジアの他の国のモデルにもなりうる。

ドラマの会話は「きれい」な会話

―高校から日本に来られたということですが、日本に来る前に日本語を学ばれたのですか?

いいえ、全然。全くしゃべれなかった。だから、日本に来てからは、まず日本語学校に通ったの。みんな留学生同士で、下手な日本語だったけど、とりあえず日本語を話しまくったのは、今ではよい思い出よ。日本語学校には一年半ほどいて、その後は東京学芸大付属高校に入学した。

―そうは言っても、先輩の日本語は本当にうまいと思います。留学生の方によくある訛りとかほとんどないですし。

そりゃ、それなりに勉強したからね(笑) 高校に入っても、日本人の友だちが話す日本語のアクセントを意識して学ぶようにしたし、後は日本のいつもドラマを見てた。考えてみればわかるけど、ドラマの中で役者さんたちが交わす会話って、通常の日常会話にはない、非常に「きれい」な会話なんだよね。

それに、日本の高校で日本人の学生たちと一緒に勉強できたことも大きかったと思う。学芸大附属って、帰国子女や留学生を頻繁に受け入れているせいか、みんなどこか「慣れてる」。ほら、日本人って、留学生が間違った日本語を話していても、遠慮して訂正してくれなかったりすることがよくあるじゃない。

日本語を学ぶ側からすると、それは困るのよね。自分の日本語を改善することができないし、こちらも今話している日本語は間違ってるんじゃないかと、いちいち気を使わなければなれなくなる。それくらいなら、むしろ笑い飛ばしてほしいというか(笑)

その点、高校の友だちは、みんな日本人を相手にするのと同じ感覚で私に接してくれた。私が変な日本語を話すと、みんな大笑いして、それから私に正しい日本語の話し方を教えてくれたの。恥ずかしいと思ったこともあったけど、遠慮してくれなくて、こちらとしてはむしろ気が楽だった。

―学芸大付属高校の授業はどんな感じでしたか?

一言で言うと、「実験校」みたいだった。学芸大附属って、文系理系を問わず最初の2年はみんな全く同じ科目を勉強するけど、3年生になれば自由に授業を選択することができるの。先生もみんな自分の教えたいことを教えてた。特に印象に残ってるのは、倫理の授業は少人数ゼミナールの形で行われていて、カントとかアリストテレスとか、西洋古典の思想に関する著作を1年通して読み続けたの。その先生曰く「将来実務家になるにせよ、何らかの思想を持つ、少なくともそれらについて知っておくことは重要だ」って。学芸大附属に行けて、本当に良かったって思ってる。

新しい環境を求めて

―話は変わりますが、京大へはどういった経緯で入られたのですか?

政府派遣留学生には、通常一般の留学生とは別個に入学枠が確保されているのよ。だから、京大への入学希望をタイの在日大使館に出して、そちらから推薦をもらい、日本側とも交渉してもらったうえで京大に入学した。その京大の特別入試では、小論文と面接試験があった。

―京大、しかもその法学部に入られたのには、どういった理由があるのですか?

日本語学校時代、高校時代に東京にいたことが大きかったかな。東京は非常に刺激的なところだし、友人もできて学生生活も本当に楽しかったのだけど、大学もそのままの調子で続けるのはどうかと思ったの。せっかくの大学生活が高校生活の延長になっちゃうんじゃないかって。だから、そろそろ環境を変えた方がよいのかなと思ったのよ。日本の古都として名高い京都に魅力を感じたことも理由の一つ。

法学部に入学したのは、最初にも言ったように、私は帰国後タイで公務員になることが義務付けられているから、大学にいるうちに将来に関係しそうな学問分野を学んでみたかったからよ。それに、わかると思うけど、京大法学部って、ほとんど必修がないでしょ。その自由さが気に入った。あと、京大のキャンパスって基本一つになってるから、先輩と後輩が離れ離れになることもないし、先輩たちとの人間関係を作りやすいかなっと思ったの。

―大学では今までどんなことをしてきたのですか?

いろいろやったね。まず、「国際法学研究会(国法研)」というサークルに入った。大学に入学したとき、高校時代にテニス部と写真部に入っていたから、大学でも続けようと思ったのだけど、新歓のときに友達に「一緒に行ってみない?」って誘われて、気づいたら入部していた。

国法研って、国際法の模擬裁判の大会に参加したりするサークルなんだけど、その大会に参加するために、それこそ一回生の頃からどっぷり国際法に浸かっていた。と言っても、国際法だけじゃなくて、英語、資料のリサーチ、プレゼンのやり方、法的思考とかいろんものを身につけられるサークルでもあった。今年は日本、アジアでの予選を突破して、ワシントンDCで開かれる世界大会にも参加したよ。こういう国際法の模擬裁判って、日本からは法学部生が参加するのだけど、海外のチームからはたいてい大学院生が参加するんで、日本勢が勝ち上がるのは本当に大変。

ストラスブール大学へ交換留学

―留学もされたと聞きましたが、どこへ行かれたんですか?

ええ、そうよ。2回生の後期に、フランスのストラスブール大学へ1年間、交換留学に行ったの。とはいえ、留学期間の半分は附属の語学学校で勉強してたから、正規の授業をとっていたのは実質半年程度だったの。

―フランスの授業はどんな感じでしたか?

法学の授業に関して言えば、基本的に日本と同じだね。大教室で大勢の学生に対して先生が講義するというスタイル。先生のフランス語は早口だし、授業が進むのも早くて、ついて行くのは本当に大変だった。

それでも、フランスで法学の授業を受けたのはいい刺激になったと思う。同じ国際法の授業といっても、フランスの授業なら扱われるのはフランスが関わる事例が多いとか、また日本でやる授業とは視点が違う。また、憲法の授業では、頻繁に改正されているフランス憲法を説明するために、憲法の歴史や政治構造との関係にかなりの時間を割いて解説することが印象的だった。あと、EU法の関係に関する講義も面白かった。

アジアの統合のために法律を

―最近なにか関心を持っていることなどはありますか?

そうね……。最近は日本の法律に関心がある。私は今までどちらかというと、法学より政治学の方を学んできたんだけど、そうするとどうしても物事の「大枠しか理解できないのよね。やっぱり法律を学ばないと、物事の構造や、現実の問題をどう解決するかが見えてこない。だから、今さらかもしれないけど、民法や会社法などに興味を持っている。

―最後に、先輩は将来タイの公務員になることが確定しているということですが、どの分野の公務員になりたいといった考えはありますか?

政府側の都合にもよるから、必ずしも私の希望通りになるとは限らないけど、できたらタイの外務省か内閣法制局に入って、内閣が議会に提出する法案を事前に審査したり、海外の法律を研究したりしたいと思う。

もっとも、大学院まで行かせてくれるから、帰国する前に海外の大学院で修士を取ろうかなって考えてる。まだ具体的に何を研究するかまでは決めかねているけど、フランスに留学した影響からか、今は国際法、特にEU法に関心がある。

現在、ヨーロッパでは政治的・経済的統合が進んでいるけど、その背景にはEU法によって各国の主権が一部ではあるけど制限・移譲されていることがあると思うの。今後のアジアも同じことが言えるんじゃないかな。つまり、今後アジア諸国もヨーロッパみたいに統合していくんだろうけど、それ際してEU法を研究することは、いかにしてアジアをよりよく統合に近づけていくかを考えるときに大いに参考になるんじゃないかって。もっとも、アジアは政治や文化や宗教などの面で違いが大きいから、EUのモデルをそのままアジアに使えるわけではないだろうけど。

東京学芸大学付属高校:
http://www.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp/
京都大学国際法学研究会:
http://kyotokokuhouken.web.fc2.com/
Université de Strasbourg :
http://www.unistra.fr/

インタビューアーからの一言

ティティラット先輩には、法学部の国際政治経済分析のゼミで出会いました。英語で話すゼミなのですが、その中でも積極的かつ明確に自分の主張を述べられていて、みんなのディスカッションをどんどん前進させていたのが印象に残りました。話してみると、非常に気さくな方で、勉強や将来に対する私の悩みにも、真摯に相談に乗っていただきました。今回のインタビューでは、法律学や大学卒業以降の進路について意見を交換することができ、非常に有意義でした。それでは、またゼミでお会いしましょう!

50/img/interviewee_s_141_profile.jpg 吉村政龍。1989年東京生まれ。小学5年から高校3年までの8年間を台湾の台北で過ごす。中学と高校はDominican International Schoolに通い、08年に卒業。同年帰国し、1年間の受験勉強の末、京都大学に入学。現在は法学部3回生。大学では政治経済学と東洋法史のゼミに所属し、法学部学生自治会の活動にも参加。最近は少数民族の人権問題に関心を持っている。2011年9月よりアメリカ・ペンシルベニア大学に1年間留学中。